会員インタビュー会員インタビュー

Interview

2025/05/21 会員インタビュー

近畿支部

近畿支部会員インタビューNo.14 アイビ建築株式会社 佐名田社長

近畿支部会員インタビューNo.14 アイビ建築株式会社 佐名田社長

今回は、我らがジェルコの前・総務委員長、㈱アイビ建築の佐名田社長のインタビューです。有終の美よろしく、これまで陰で支えてくださった前委員長の横顔を、皆さまにご紹介したいと思います。いつもの佐名田社長とは一味違う、人間・佐名田一郎の姿も垣間見える、大変興味深い内容となっておりますので、どうぞお楽しみに!

 

京都市伏見区にある「㈱アイビ建築」様は、建材販売会社「㈲アイビ建材」を母体に生まれ、現在は建築業に専念されている会社です。断熱・気密性能に優れた住宅を得意とされており、京都市の『これからの1000年を紡ぐ企業認定』も受けておられる、地元に根ざした企業様です。

 

そんなアイビ建築様の3階にある素敵なモデルルームにて、じっくりとお話を伺いました。

 

【聞き手】 ではまず、会社の事業内容について教えてください。

 

【佐名田社長】 はい。事業内容は住宅リフォームと新築です。あとは、ほんのちょっとだけ不動産もやっています。

 

【聞き手】 パーセンテージでいうとどれくらいの割合ですか。

 

【佐名田社長】 その年にもよりますが、だいたい売り上げで言うと建築が99パーセント、残りの1パーセントが不動産って感じです。

 

【聞き手】 ありがとうございます。ところで現在社員さんって何名ですか。

 

【佐名田社長】  私を合わせて総勢で22名です。

 

【聞き手】  担当割り当てはどうなっていますか。

 

【佐名田社長】  19名が建築を担当しています。それで、うちの自慢というか強みなんですが、19名のうち11名が職人さんなんです。

 

【聞き手】  11名もですか。凄いですね。

 

【佐名田社長】  はい。9名が大工で2名が多能工なんです。

 

【聞き手】  大工さん9名もいらっしゃるんですか。2名の多能工とはどんな職人さんですか?

【佐名田社長】  ㈱ワーキングビー・柳川さんにたくさんのことを教えてもらって、2018年暮れから多能工職人の育成を始めました。設備機器の入替えや内装工事を、自社職人でできたらいいなと思って。

柳川さんにお話を聴いた翌年、僕の同い年の友人が自分の商売を辞めるっていうので誘いました。「多能工にならへんか?」って。その彼が今も社員職人として働いてくれています。

1人目はそうやってスカウトして・・でも多能工の先輩がいない。大工仕事は大工がいるから教えることはできますが、水道工事や内装工事は教えてくれる人がいない。なので、広島県呉市にある「リフォーマー学院」に行ってもらいました。とはいえ期間は1ケ月程度だし内容も基礎中の基礎。帰ってきてすぐにバリバリ仕事ができるわけありません。

そこでうちのクロス職人さんや設備職人さんにお願いして、現場で教えてもらいました。専門的な仕事を奪うわけではないということを理解してもらって、水栓金具や給湯器の交換、クロス貼り替えのノウハウを教わりました。

設備や内装に使う工具も揃えるとなると結構な金額になりますが、ちょうど良い補助金があったので使わせてもらいました。

 

【聞き手】 その方のあとにもう一人、多能工さんがいらっしゃるということでしょうか?

 

【佐名田社長】  ええ。彼の2年後に、女性が多能工として入社してくれたんです。

 

【聞き手】 女性の多能工ですか。凄いですね。

【佐名田社長】  彼女はシングルマザーだったんですが、あとになって「どうやってウチを見つけたん?」って尋ねたら、京都市のホームページに「子育て応援宣言」の記事があり、その中に弊社が載っていて「ここなら子育てしやすそう」と思って応募してくれたらしいです。

 

【聞き手】  そんないいご縁があるんですね。

 

【佐名田社長】  ええ。とはいえ初めての女性職人やし、例えば現場でのトイレ問題ひとつ取っても、本当に女性職人が成り立つのかわからない。それで1週間ほどお試し期間を設けたんですよ。本人も色々工夫して、意外と大丈夫なので正式採用しました。

 

【聞き手】  大工さんが9名で多能工さんが2名、あとは営業さんですか?

 

【佐名田社長】  営業担当が6名、経理担当1名と不動産担当1名、それと設計担当のパートさんが2名です。あとは社長の私ですね。

 

【聞き手】  社長を入れて、計22名ですか。社長の日頃の行いなのでしょうね(笑)。

では、ここで被ってくるかもしれませんが・・会社の強みを教えてください。

 

【佐名田社長】  うちは、8年前から「断熱高気密住宅」に取り組んでいて、それが成果として出てきていると感じます。

【聞き手】  どのような成果ですか。

 

【佐名田社長】  新築と大型リフォームが多く出るようになりました。

 

【聞き手】  相見積にはならなさそうですね。

 

【佐名田社長】  ならないことが多いです。断熱・気密に特化していて、それをリフォームで出来る会社は少ないので。

 

【聞き手】  凄いですね。それって大型工事になりますか。

 

【佐名田社長】  ええ。今やっている現場で税別4800万円ほどですね。

 

【聞き手】  4800万円のリフォームですか!

 

【佐名田社長】  ええ。去年も5000万円のリフォーム現場がありました。

 

【聞き手】  リフォームで5000万なら、新築が建てられますね。

 

【佐名田社長】  そうなんですよ。今回の4800万の方にも建て替えを勧めたんです。新築の方がリフォームよりも断熱・気密性能が高くなりますから。でも家が小さくなるのを嫌ってリフォームを選択されました。結構そういうお客様もいらっしゃいますね。

 

【聞き手】  確かに!でも、そんなお客様の集客はどうされていますか。

 

【佐名田社長】  大型案件はほとんどがインターネットからの流入ですね。

 

【聞き手】  インターネットでその規模のお客さんが来るってすごいですね。

 

【佐名田社長】  恐らくこういう流れだと思うんです。「快適な家が欲しいな。リフォームしたいな」ってネットで調べる。調べると断熱気密が大事だと言われているのがわかって、さらに調べていきます。そうすると恐らく「パッシブハウスジャパン」と「新木造住宅技術研究協議会(新住協)」という2団体に行きつくと思います。その加盟会社として載っているのが、京都ではうちなんです。こういったルートで流入されている方が多いんじゃないかと思います。

 

【聞き手】  なるほどね。それは強みですね。

 

【佐名田社長】  「ウチはなんでもやります」というスタンスで長年やっていました。でもそれだとお客様に選んでもらえないと思って、8年前に思い切ってホームページを「断熱住宅専門店」に変えたんです。お客様が減るかな‥と思ったら全然減りませんでした。普通のリフォームは変わらず入ってきています。

 

【聞き手】  凄いご決断ですね。

 

【佐名田社長】  ちょっとだけ自慢させてもらうと、一番新しい気密測定の結果が、過去最高の「C=0.13」でした。

断熱性能は計算で出しますが、気密性能は実測で出します。現場にアタッシュケースと掃除機みたいな機械を持ち込んで気密測定するんです。大工さんは毎回ハラハラです(笑)。数カ月間がんばった成績表を見るみたいな感じですね。

 

【聞き手】  ありがとうございます。それでは会社の弱みをお聞かせください。

 

【佐名田社長】  まずはスタッフの年齢構成が偏っていることですね。世間的に主軸と言われる30代が1人しかいないんです。22名も社員がいるのに30代がたった1人。

 

【聞き手】  でも、若い方が多いんですよね。

 

【佐名田社長】  20代が9人、30代1人、あとは40歳以上です。

20代のスタッフは経験不足だから仕方がないことですが、ここのところクレームが多くてその対応に追われています。

 

【聞き手】  でもそうやって育てていくしかないですよね。

 

【佐名田社長】  そのとおりです。一方で会社全体の利益率が上がってきたのが救いです。

 

【聞き手】  どのくらいですか?

 

【佐名田社長】  昔は平均20%くらいでした。今は100万円以下の小案件を粗利益率40%、請負額が上がるほど率が下がっていって2000万円以上の案件を30%に設定しています。

 

【聞き手】  ありがとうございます。では、今までの経営の中で一番ピンチだったことはなんでしょうか。

 

【佐名田社長】  高性能住宅に舵を切る前、2015年から2年連続で大赤字を出しました。今から思えばこれがチャンスでした。これがなかったら自分も会社も生まれ変われていなかったので。

それまでずっとギリギリではあるけど赤字を免れていたので、「長時間働けばなんとかなる」、「お客さんも喜んでくれている」、「給料は多くないけど社員もついて来てくれている」、そして「いつかきっとちゃんと儲かる」。そう思って経営していました。それが正解だと思い込んでいたんです。

 

【聞き手】  とても深い気付きだったんですね。そこからどうやって立て直されたんですか。

 

【佐名田社長】  今のやり方では駄目だとわかっても、何から手を付けたらいいかわかりませんでした。うっすらと「経営理念があるといいらしい」という記憶があって、それで「中小企業家同友会」に入会して経営理念を含む「経営指針書」を作りました。

そして意気込んで、社員を相手に経営指針書発表会を開催しました。そしたら「何を急にやりだすんだこの人は」という空気でみんなシーンとしてましたね(笑)。

いちいちめげてもいられないので、もうがむしゃらにやりました。ちょっとでも良いと思ったことは手当たり次第に。

 

【聞き手】  普通は赤字になったら売上を上げようとか、経費を削減しようって考えるものだと思うんですが‥。

 

【佐名田社長】  そうですね。でもウチは経費も削減するところがなかったんですよ。僕はゴルフもしないし、車もボロボロのを乗っていましたし、そもそも無駄使いできるほど会社にお金がなかった(笑)。

それで次に、税理士を変えて経営コンサルを入れて、利益をキチンと取るようにしました。すると徐々に改善していきました。はじめは「こんなに利益を取ったらお客さんが離れないか?」って不安もありましたけどね。

 

【聞き手】  コンサルと税理士を変えたんですね。

 

【佐名田社長】  はい。それまで僕は「月次会計」や「月次ミーティング」という言葉も知りませんでした。税理士さんって年に1回しか会わないものだと思っていたんです。目隠しをして運転しているような状態でした。

たまに、税理士さんと経営コンサルってどう違うの?って訊かれることがありますが、過去を見て分析するのが税理士、未来を見てアドバイスしてくれるのが経営コンサルです。僕も最初どっちかでいいと思ったんですけど全然違う。どちらも必要でした。

 

【聞き手】  そんな佐名田社長にお聞きしたいのですが、なぜ経営者になろうと思ったのですか。

 

【佐名田社長】  なぜもなにも2代目なのでそうなりました(笑)。親は僕に進学校に行かせて、違う道に進ませたかったみたいで、「この会社は継がなくていいから」と言われて育ちました。僕もそのつもりで、将来は大企業に入るものだと思っていました。

でも僕が高校生の時に母が建築業を始めて、ちょうどバブルの影響もあって状況が変わったんでしょうね‥。僕が大学生の時に「うちの会社どうするつもりなん?」って急に言われて、びっくりしました。「俺、継がなくていいって言われていたんじゃないの?」と思っていましたので無視していましたけど(笑)。

【聞き手】  そこからどうやって立て直されたんですか。

 

【佐名田社長】  これがすごく良かったんですよ。とにかく手当たり次第、いろんなことをやりまくりました。まず最初にやったのは経営理念を作ることでした。何から手を付けたらいいかわからなかったんですよね。でも、どこかで人から聞いたり、新聞で読んだりした記憶があって、「経営理念があるといいらしい」と。それで、どこで作るんだろう、と思いながら自分で書いて、作って、みんなに発表しました。そしたら、「何を急に何をやりだすんだこの人は」という空気でみんなシーンとしてました(笑)。

でもそこから、色々やりましたね。経営理念を作って、10年ビジョンや経営計画も立てました。でも計画通りに行く訳はないんですけどね。

 

【聞き手】  普通は赤字になったら売上を上げようとか、経費を削減しようって考えるものだと思うんですが‥。

 

【佐名田社長】  そうですね。でも僕は、経費も削減するところがなかったんですよ。ゴルフもしないし、車もボロボロのを乗っていましたし、普段から無駄遣いをしていなかった。それに、売上を上げようと言っても、当時できることは全部やっていたんです。それで、次にやったのが、税理士を変えて、経営コンサルも入れて、利益をガッツリ取るようにしました。そうすると、大幅に改善していきましたね。それまでは28%で見積もり計算していたのを、100万円以下の工事は40%で出すようにしました。「こんなことしたらお客さん離れませんか?」って不安もありましたけどね。

 

【聞き手】  コンサルと税理士を変えたんですね。

 

【佐名田社長】  はい。それまで僕は「月次報告」や「月次会計」という言葉も知りませんでした。税理士って年に1回しか会わないものだと思っていたんです。今思えば、完全におかしいですよね。それに気づいて、まずそこを改善しました。今思えば本当に奇跡みたいな状態でした。税理士は過去の数字を見る役割ですけど、未来を見てアドバイスしてくれるのがコンサルでした。僕は最初、どっちか一人でいいと思ったんですけど、やっぱり全然違う。どちらも必要でした。

 

【聞き手】  確かに。そんな佐名社長にお聞きしたいのですが、なぜ経営者になろうと思ったのですか。

 

【佐名田社長】  実は僕、経営者になりたくてなったわけではなく、2代目なので、自然とそうなりました。

親もどちらかというと、僕に進学校に行かせて、違う道に進ませたかったみたいで、この会社を継がなくていいと言われて育ちました。僕もそのつもりで、進学校に行って、大企業に入るものだと思っていました。でも、僕が高校生の時に母が建築業を始め、それまでの建材屋から建築業に切り替わって、バブルの影響もあり、色々状況が変わったんでしょうね‥。僕が大学生の時に「この会社どうするの?」って急に言われて、びっくりしました。「俺、継がなくていいって言われていたんじゃないの?」と思っていましたので最初は無視していました(笑)。

そんなころバックパッカーで貧乏旅に出たんですが、日本に帰ってきてから「ひきこもり」になったんです。

 

【聞き手】  「ひきこもり」ですか。海外で何かあったとか。

 

【佐名田社長】  いえ、楽しかったです。でも、帰ってから急に引きこもりになりました。はっきりした理由が自分でもわからないんですが‥。

 

【聞き手】  そこから抜け出すきっかけは何だったんですか。

 

【佐名田社長】  母親が、当時名古屋に住んでいた僕のところに急に来て、「いつまでこんなことしてるんや!」と引きずり出されたんです。それで観念しました(笑)。

 

【聞き手】  それで仕事をしようと思われたのですか。

 

【佐名田社長】  はい。ただ、大学は卒業せず中退しました。

 

【聞き手】  中退されたんですね。それで家業を手伝うことに?

 

【佐名田社長】  そうなんです。よく「どこで修行したんですか?」と聞かれるのですが、恥ずかしながらずっと家業です(笑)。

 

【聞き手】  最初は何をされていたんですか。

 

【佐名田社長】  最初の2年間は父親が経営していた㈲アイビ建材という建材販売店に入社して、毎日ダンプカーでセメントや砂を運んでいました。元引きこもりの僕にとって、元ヤン、陽キャの左官職人さんとは水と油みたいで、なるべく目立たないようにそっとしていました(笑)。

そこから3年目に㈱アイビ建築に移りました。建築は完全に素人。職人経験もゼロからの出発でした。

 

【聞き手】  なぜ建築にいかれたのですか。

 

【佐名田社長】  それも母親の命令です。左官材料店は将来的になくなると言われて、建築業に移りました。

建築の知識は全て現場で学びました。大工仕事はできませんが、現場で養生をしたり、ゴミを集めたり、解体作業を手伝ったり。丸一日現場に出て少しずつ覚えました。

 

【聞き手】  すごいお母さんですね。

 

【佐名田社長】  ええ。母の打ち合わせに同行したり、現場に入って手伝いをしていました。母も建築の素人から始めましたが、交友関係が広い人で、友人のリフォームや、その方の紹介で仕事が広がっていました。

今から35年前に女性が建築営業をしていたのはとても珍しいことでした。リフォームの実質的な依頼主は主婦の方がほとんどですが、工務店、リフォーム店からは男性担当者が来ますよね。でも「アイビさんなら女性の担当者さんが来る」と評判になったんです。

そんな母と僕は喧嘩ばかりしていました(笑)。今でも思い出して反省するのは、社員の前で喧嘩していたことです。そんな母も少し前に引退しました。父も引退していますし、二人ともだいぶ年をとったなと思いますね。

 

【聞き手】  色んなご経験のある佐名田社長ですが、そんな社長の強みって何でしょう。

 

【佐名田社長】  物事をしつこく続けるのが得意なんだと、最近になって思っています。昔は三日坊主だったのに、今はなぜか続くようになりました。

例えば朝礼も10年ほど続けていますし、ニュースレターの「アイビ通信」も10年以上続いています。あと「社長の社内報」というのがあって、月に1回、社員一人一人にあてたメッセージカードをつけて給与明細書に同封しています。これも4年間、休まず続けています。

【聞き手】  全員に毎月メッセージカードを?凄いですね!

 

【佐名田社長】  はい(笑)。例えば、「〇〇さん、毎朝きっちり挨拶してくれて嬉しいです」というような感じです。常日頃ひとりひとりを見ていないと書けないので、困る時もあります(笑)。

 

【聞き手】  継続は力なり。本当にすごいですね。継続することは、社長ご自身の自己肯定感を高めてくれますし、それは社員にも伝わると思います。継続することで、社員は「この社長は言っていることを本当に実現してくれる」といった信頼にも繋がりますしね。

 

【佐名田社長】  だとしたら嬉しいですね。メッセージだけでなく、「社長の社内報」にも思い入れがあります。「ウチの社長は何を考えているかわからない」なんて、社員に絶対言わせたくないんです。だから毎月、今僕が考えていること、感じていることを書いています。仕組みづくりのことも書きますし、中途採用の子に断られたことも書きます。全部、本音です。

 

【聞き手】  熱いですね。文章なら全員に伝えられますね。社長の考えがわかると、社員は安心するんですよね。社員の不安を減らすためにも、社長の思いを伝えることはとても大事です。社長の考えを知りたくない社員なんていないと思います。それに佐名田社長、文章を書くのも上手ですしね。

 

【佐名田社長】  いやいやそんなことないです(笑)。毎月すごく悩みますし、全然埋まらないときもありますよ。

 

【聞き手】  経営指針書もですが、作り続けておられるのが凄いと思います。

 

【佐名田社長】  経営指針書は年々分厚くなっていって、僕はそれを誇りに思っていたんですが、あるとき社員から「これじゃ誰も読まない。薄くて的確な方がいい」と言われて今年は思い切って薄くしました(笑)。

 

【聞き手】  社員が社長に進言できて素直に受け取れるのは、社長が素直な気持ちで関係性を築かれているからこそだと思います。

 

【佐名田社長】  僕なんて大したことないです。みんなの意見を集めた方が絶対いい。

 

【聞き手】  「三人寄れば文殊の知恵」どころか、社員全員集まればもっとすごい力になりますよね。

 

【佐名田社長】  そうですよね。今、うちには22個の脳みそがあるんですから!

 

【聞き手】  では逆に、社長自身の弱点ってなんでしょう。

 

【佐名田社長】  物忘れですね(笑)。

 

【聞き手】  物忘れ(笑)。

 

【佐名田社長】  今も昔も、物忘れが酷いんです。だから、経理担当の青山が僕の「外部記憶装置」みたいになってくれています。

 

【聞き手】  いいですね(笑)。社長は忙しいからある意味仕方ないのかな‥とは思います。それでは、仕事での一番のやりがいってなんですか。

 

【佐名田社長】  それはもう、社員が「お客さんにすごく喜ばれました!」って満足顔で報告してくれることが一番嬉しいです。自分がお客様から喜ばれるのも嬉しいですが、社員たちが仕事を通して喜びを感じている姿を見ると、もっともっと嬉しいです。建築という技術を通して人に喜んでもらうのが好き。社員たちがそれを感じてくれるのが、たまらなく嬉しいです。

 

【聞き手】  社員に仕事を通じて喜びを感じてもらえるのは社長としては親心のように嬉しい瞬間ですよね。

 

【佐名田社長】  ええ。お客さんに喜ばれることは、実務に携わる者として一番嬉しいことですから。どんな仕事でも全てそうだとは思いますが。

 

【聞き手】  ありがとうございます。では続きまして‥リスペクトしている社長っていらっしゃいますか。

 

【佐名田社長】  ㈱井尻ハウビングの井尻社長は長年リスペクトしている存在です。もう15年以上になる友人なんですが、「佐名田さんは経営者でしょ。全部自分でやってたらあかんでしょ」なんて、僕より年下なんですがよく駄目出しされたものです。

でも当時の僕にはその意味がさっぱり分からなかった。「何を言うてるねん。俺が全部やるからお客さんが満足するんや」って。今でも彼からは「佐名田さん、よう“俺がアイビ建築なんや“って言うてたよね」とからかわれます(笑)。

彼は経営者としての背中をいつも僕に見せてくれる人。多店舗展開もそうだし、社員教育や人事評価なんかも教えてくれたりします。新卒採用、中途採用なんかの戦略的なことも良く知っていますし、実践もされていて尊敬しています。

 

【聞き手】  そうなんですね。でも、年下で且つ同業者の社長に対して素直にリスペクトしてるってさらっと言える佐名田社長も素敵だと思いますよ。では、この辺で‥ジェルコに入会するきっかけを教えてください。

 

【佐名田社長】  思い出した!そういえば、ジェルコも井尻さんに誘われたんです。「佐名田さんには絶対に勉強なるから」って。なのに本人は参加しないという‥(笑)。

 

【聞き手】  なるほど(笑)。

【佐名田社長】  ジェルコに入会してから、もっとも影響を受けたのはやっぱり多能工です。

 

【聞き手】  多能工はジェルコがきっかけなんですね。

 

【佐名田社長】  ええ。4部合同交流会が岡山であったんですが、そこで㈱ワーキングビー・柳川さんの講演を聴いて、それがずっと頭に残っていて今の体制づくりに繋がっている。地域の枠を超えて同業者さんに繋がれるのは大きいですね。

【聞き手】  確かにそうですね。私たちも佐名田社長と繋がれたて良かったです!話しは全く変わりますが、好きな作家や感銘を受けた本なんてはありますか。

【佐名田社長】 好きな小説家は池井戸潤さんですが、衝撃を受けた本は2つあります。どちらも若い時に読んだ本で、ひとつは「サハラに死す(上温湯隆著)」です。読み終わって、「俺は何をしてるんだ、もっともっと命を燃やさなければ」って、いてもたってもいられなくなってアジア貧乏旅行に出発しました(笑)。

 

【聞き手】  ええっ!凄い影響力と行動力ですね(笑)。

【佐名田社長】  若さゆえでしょうねえ(笑)。もう一冊が「深夜特急(沢木耕太郎著)」です。どちらも旅の本ですね。

 

【聞き手】  では、その流れで‥好きな言葉や座右の銘はありますか。

 

【佐名田社長】  社員にもよく言うんですが、「他人は変えられない。変えられるのは自分だけ」っていう言葉があります。コントロールできるのは自分だけだけど、努力して自分が変われば、それを感じた周りの人が自然に変わってくれる可能性は結構あるって思います。

 

【聞き手】  確かに、「類友」じゃないですが、周りの人と影響を与え合っていますからね。そんな佐名田社長の10年後はどんな風になっていたいですか。

 

【佐名田社長】  65才までには事業を承継できる人を定めて、70歳までに譲っていきたいなって思っています。ダラダラ残っては駄目だとも思っていますので、別の仕事を見つけているのが一番ベストかもしれないですね。

 

【聞き手】  これから挑戦したいことはありますか。

 

【佐名田社長】  高断熱・高気密住宅はすでにあらゆる会社が参入していて、もう5年もすると強みじゃなくなると思っています。なので今、防音とオフィスのフリーアドレス化について社内でチームを組んで研究中です。

今、関東で入居希望者が殺到している賃貸マンションがあるんです。ブランド名を「ミュージション」って言って、一見、普通のワンルームマンションなんです。でも全室が防音仕様になっていて、24時間いつでも楽器の練習ができる。その分賃料がかなり高いのですが、そんなマンションって他には無いから入居待ちの人気物件になっています。楽器を趣味にする人がそれだけ多いということなんですが、それを戸建てでもやりたいって思っています。

 

【聞き手】  それは、面白い取り組みですね。では、社長が過去に戻れるとしたらいつに戻りたいですか。

 

【佐名田社長】  僕はあまり過去に戻りたいとは思わないのですが‥。あえて言えば高校かな。自分は進学校に進んだのですが、そうじゃない道に行ってみたい。娘が美術高校に進んだのを見て、心から羨ましいと思ったことを思い出しました。僕も高専に進んで、ロボコン(ロボットコンテスト)に出てみたい(笑)。

 

【聞き手】  では、佐名田社長の未来を色に例えると何色でしょう。

 

【佐名田社長】  灰のような白色ですかね。もうやりきったぞっていう色です。やりきることは難しいでしょうが、後悔無いようにはしたいです。周りには車が好きだったり、ゴルフに情熱を傾けてたり、投資に詳しかったりと、そんな人が多くいますが、僕はそういうのに疎くて、ずっと建築しかしてないんですよね。だからこそ、せめて仕事をやりきった自分に誇りを持って死にたいと思います。

【聞き手】  素晴らしいです。そんな佐名田社長って、子供の頃どんな子供でしたか。

 

【佐名田社長】  釣りとプロレスが好きな少年でした。母が習い事マニアだったので、水泳、そろばん、オルガン、英会話、剣道‥色々させてもらいましたね。

運動は小学校の時に硬式テニス、中学校の時に軟式テニスをしていました。

 

【聞き手】  進学高校もですが、2代目さんの英才教育ですね。

 

【佐名田社長】  進学高校時代の友人と久しぶりに集まったんですが、12人中8人が医者で驚きました(笑)。

そんな彼らとは対象的に、僕は大学時代に引きこもりになりました。その時の経験から、現在取り組んでいることがあります。いま全国に引きこもりが146万人いるといわれています。なのに、僕らの建築業界では職人不足です。この2つの社会課題を同時に解決できないかと。要するに、引きこもりの人に建築職人になってもらおうっていう取り組みです。

いまウチに、網戸を張り替えに来てくれる引きこもりの男性がいるんですよ。

 

 

【聞き手】  それは凄くイイ取り組みですね。そう考えると佐名田社長の引きこもりの経験も人生の中では重要な出来事だったということですね。

 

【佐名田社長】  はい。その彼なんかは、今まで農業とかクリーニング屋さんとか色々やった仕事の中で、網戸張り替えが一番面白いって言ってくれています(笑)。ただ、うち1社ではどうしても仕事が途切れ途切れになってしまう。本当は網戸の張替えに飽きてもらって、「もっとスキルの高い職人仕事がしたい!」と思わせたいのに、肝心の網戸仕事が飽きるほど続かないんです。

なので今、同じ危機感を持っている建築会社や設計事務所、そして引きこもり支援団体を巻き込んで、次なる策を考える会議を開いています。

僕の経験からですが、「引きこもり」ってずっと家にいる訳だし楽に思われがちですが、実際のところ本人は精神的に凄く苦しいんです。だから「引きこもっているより仕事をした方が絶対楽やで」っていうのを彼らに伝えたいなって思っています。

 

【聞き手】  引きこもりの人ってどうして精神的に苦しいんでしょうか。

 

【佐名田社長】  それについては僕もずっと考えてたんですよ。最近思い至ったのが、「世の中の誰の役にも立っていない苦しみ」だったんじゃないかなと。プロのスキルでお客様の役に立つことはもちろん、給料を持ち帰ったり、生き生きしているところを見せて自分の家族の役にも立つこともできていない。引きこもっていたら誰の笑顔も見られないんですよね。

 

【聞き手】  社会の中で自分だけが取り残されたような感覚になりますね。それでも出られないジレンマ。

 

【佐名田社長】  そうなんです。引きこもるのに大きな理由がない場合も多いのではないかと。寝坊をして学校や会社に行くのが面倒になって、それが何日も続くと、もうみんなと顔を合わせ辛くなって、だんだん人と会うのも怖くなっていく‥。若い時は自分の弱さや、無力さ、かっこ悪さを露呈させたくなくて自己防衛が働いたりもする。そういうことも引きこもる理由の一つではあると思いますね。

 

【聞き手】  なんとなく理解できます。自分の弱さを人に見せられるのは自分に自信があるからこそだと思います。若くて自信も無い、自分の弱い部分を露呈させるのは恐怖でしかないです。そもそも「無い」と言えるほどの自信も無いのですから。

凄く深いご経験とそれを未来に活かす取り組みを会社全体でなさっておられるアイビ建築様って本当に素晴らしいと思います!

佐名田社長、今日は本当に楽しいお時間でした。ありがとうございました!

編集後記

佐名田社長の第一印象は、布袋さんのようなニコニコ笑顔で、見るからに「穏やかでイイ人」でした。けれど、佐名田社長は“ただのイイ人”ではありませんでした。知識や知見の深さ、それを裏打ちするユーモアあふれるトーク力、圧巻の経営指針書などの文章力、社会貢献や周囲への配慮に満ちた視野の広さと視座の高さ──それらすべては、社長ご自身のご経験を通じて、そこから逃げずに悩み、考え抜かれた「賜物」なのだと、今回のお話を伺い改めて実感しました。

「僕ね、今いるみんなと10年後も20年後も一緒にやっていきたいんです。みんなと一緒でないなら、会社をやる意味がない。」と、いつもの笑顔から一転、真剣な面持ちで語る佐名田社長。

佐名田社長なら、きっとこれからもご自身のビジョンを着実に実現されていかれるのだろうと感じました。

そんな佐名田社長と2年間ご一緒できた私たちは、本当に本当にラッキーでした。委員長としていつも私たちを引っ張ってくださり、ありがとうございました!すべてが楽しく、またご一緒できる日を心から楽しみにしています♪

ひとまず一区切り──ジェルコ委員長としての2年間、本当にお疲れさまでした。<(_ _)>